2012年9月26日水曜日

日中友好祈願小説:太郎と美鈴 P2

「早く仕事を切り上げて日本に帰って来い」
 ある会社の北京駐在員をしている田村太郎の父親は毎日矢を射るようにメールを送ってくる。
「仕事を放り投げて帰るわけにはいきません」
「命を落としたらどうする」
「その時はその時です」
「バカ野郎」
 こんなやり取りが毎日続く。
緊張が続く日本と中国だったが、そんな時太郎の唯一の救いは恋人の中国人女性美鈴が全身全霊で太郎を愛してくれる事だった。
「ミーリン(美鈴)」
 太郎は中国風に美鈴をこう呼んで抱き寄せる。
「ああミスズ(美鈴)」
 今度は日本風に言った。
太郎はキスをしながら、
「ミーリン、ウォー・アイ・ニー(美鈴君が好きだ)」
 と言うと、美鈴は黙って頷いた。
二人の愛の高まりと反比例するように日中関係は冷え込んで行く。
「日本と中国がどんな関係になろうともぼく達の関係が冷え込むことはない」
 自分にも言い聞かすように太郎が呟くと美鈴は、
「シー(はい)」
と中国語で大きく頷きながら返事をする。
「美鈴はぼくの宝だ」
 太郎はまた自分に言い聞かすように大きな声で呟くのだった。 

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