田村太郎は日系企業の北京駐在員として五年目の秋を迎えようとしていた。
今まで北京での太郎の仕事は順風満帆だった。
北京の人々の信頼も厚い。
だがあの昨今の一連の事件で太郎が築いた信用も揺らいでしまった。夜も寝れない日々が続く。
太郎の両親は心配して、
「はやく仕事を引き上げて日本に帰って来い」
と毎日のようにメールを送ってくる。
「せっかく五年もここでがんばったんだ。帰れない」
この太郎の言葉に、
「何かあって命を落としたらどうしようもないだろう」
と太郎の父親は烈火のごとく怒った。
そして太郎には父親に言えない秘密があった。
「中国人の恋人がいたのである」
太郎はこの恋人に美鈴と名前をつけ、家ではミスズそして外では中国風にミーリンと呼んでいた。
ある夜太郎は美鈴に、
「迷惑をかけてすまない」
と頭をさげて詫びると、美鈴は大粒の涙をこぼして、
「あなたが何かしたわけではないのに何でそんな事を言うの」
と泣き伏してしまった。
「こんなに日中間が揉めてもぼくが好きか」
と太郎が聞くと、
「もちろん、たとえ日本が嫌いになってもあなたは好き」
美鈴はこう言葉を返すとまた泣き伏すのだった。
続く
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